第8章 同じ気持ち
なに、これ…?
どういうことだろう、翔君の顔が、まともに見れない。
「もお…ほんと危ないんだから
とりあえず歩いて帰る時は
俺に電話してよ」
と声だけが頭の上で響く。
私は今どんな顔をしているのだろう、とそればかりが気になって、その言葉を流してしまった。
少しして、やっと私の頭にそれが追いつく。
「え、いや、翔君仕事あるし!」
慌てて顔を上げると「そうなんだよね」と困り顔の彼がいて。
「こんな時間に帰ってること知ったら
俺、超心配なんだけど」
と、下がった眉がいつの間にか形を変えて、真剣な眼差しで私を見る彼に驚いた。
「う、ううん!めったにない!
こんな遅く帰ることなんて、
めっっっ、たにない!」
俯いた私は首を横に振る。
そんな目で見られたら、どんな顔していいのかわからない。
そのあまりにも大きな揺さぶりに「わかったから」と笑いながら私の動きを止めた彼。
視線同士をを合わせるように、私のアゴを右手でクイっと上げた。
頬に触れるその大きな手が、私の知っている男の子じゃなくて男の人なんだと感じさせる。
「……、」
顔を動かせない私は、彼の整った顔を黙ったまま見つめるだけ。
「あ、止まった」
「そ、そりゃあ止まるよ」
嫌でも下を向けない状況に面白がった彼はなかなか手を離してはくれない。
「ふはは」
「は、離して頂けませんか、翔さん」
「やだ」
「う、」
ニヤニヤとそれを楽しんでいた彼の表情が、急に真剣な顔つきに変わる。