第8章 同じ気持ち
「主人公名前ちゃん?」
「!」
暗闇の中、突然声をかけられて体がビクッと反応した。反射的に体を縮こまらせ、顔を覆うように隠す。
「あ、ごめん!俺、俺だよ」
そう言われ恐る恐る顔を上げると、真っ暗闇の中、腰のあたりまで生えた草をかき分けて、突然私の前に現れた彼。
「翔、くん…」
その姿を見ただけで、強ばった肩の力がゆるり、と解ける。
「ごめん、驚かせて」
眉を下げて笑う彼に安心はしたが、まだ突然話しかけられた驚きは治まらず、外に漏れてしまいそうなくらい早い心拍数で鳴る心臓の音。
「う、ううん…」
今の今まで意識していた人の登場に、驚きとはまた違う感情が一緒になって。もはやどちらのドキドキかわからなかった。
「どうしたの、こんな時間に
つうか、1人で危ないんですけど」
急に彼が、父親のような口調になる。
「あ、ええっと…、
佳奈と三井君とご飯食べてて…」
たったそれだけ伝えるのに吃る私。
目の前にいるのはいつも通りの、いやなんなら今日会ったばかりの、昼間の彼と何も変わらないのに。なんだか調子が狂ってしまう。
佳奈達がおかしなこと言うからだ、とまた心の中で密かに唸った。
私の気も知らない彼が、あっは、と大きな笑いを出して
「ほんと、仲いいな」
とゆっくり私の前を歩き始める。
「あ、ははははは…、」
と、彼の真似をして笑ってみたものの、顔が引きつって上手く笑えない。
昨日までの私はどうやって笑ってたんだっけ。