第21章 大切だったのは
フワッと彼の爽やかな香りが鼻をなでる。
「…頼むから、泣かないで」
彼の腕の中で、彼の胸の鼓動が聞こえると益々溢れるそれ。
時間が、止まったような気がした。
私、ずっとこうしてもらいたかったんだ、翔君に。ずっと翔君だけを思って。
「…、しょう、くん」
「…うん、ごめん、俺
なんも気づいてあげられなくて
俺が本当はこうしてあげたかったのに」
「……、」
耳元で聞こえるその言葉に、もう何もかもがどうでもよくなった。
「こうしてあげたかった」その言葉だけが、その言葉だけで嬉しくて。
「…主人公名前ちゃん、
こんなこと今言っちゃいけないのは
わかってるんだけど」
体を離されて、私を見つめるその瞳が揺れる。
あの時と同じ
前髪から覗く、わざと細めた視線。
赤い唇が、
ゆっくり動く。
「好き、なんだ」