第20章 想い届く
ーMsideー
「翔っ!今度こそ迷わず伝えろよ!」
教室を飛び出して行った翔の背中に叫んだけど、あの様子じゃたぶん聞こえてはいないだろう。
俺たちもすぐに翔を追い掛ける。
「雅紀!来て!」
走りながら智が隣の教室に向かって叫んだ。
そうだよな。
雅紀にも一緒に見届けてほしいよな。
「え?なに?」
驚いた雅紀が飛び出してきて。
「ついてきて!」
何がなんだか分かっていない雅紀に、智が振り向きながら声を掛ける。
「う、うん」
有無を言わせない智に雅紀は目を白黒させながらも、ちゃんと俺たちを追って走り始めた。
その隣には風間もいる。
本気を出した翔のスピードは凄まじいものがあって、瞬く間に姿が見えなくなった。
「翔くん速いね」
「あいつやっと本気出したな」
走りながら智が楽しそうに笑う。
翔の様子から今度こそ大丈夫だと思っているんだろう。
もちろん俺も同じ気持ちだ。
「本気出すの遅いよ」
「全くだ」
「でも遅すぎるってことはないよね?」
「きっとな」
笑顔でそんなことを話しながら走り続け、昇降口に辿り着くと
「好きだ!!」
想いの丈を叫んだ翔が力任せにニノを引き寄せて抱き締めているのが見えた。
下校ラッシュど真ん中の、昇降口の前。
突然始まったラブシーンに、帰ろうとしていた生徒の大多数が足を止めて翔たちに注目している。
みんなこの2人のラブラブは見慣れているとは言え、この数日の不自然な様子もとっくに知れ渡っていて。
どこか緊迫した空気が漂う2人を固唾を飲んで見守っている。
本来ならうるさいはずのその場は、嘘みたいに静まり返っていた。