第3章 手紙
見つかる前にと急いで教室に戻ったら、程なくして翔たちも戻ってきた。
手を繋いだまま。
そのまま校内歩いて来たのかよ。
「ふっ···くくっ···」
せっかく落ち着いてた笑いがまた込み上げてくる。
智は吹き出す俺をチラリと見たが、何も言わずニノに声を掛けた。
ニノはあっさり翔と繋いでいた手を離すと、嬉しそうに智に抱きつく。
2人はぎゅうっと抱き合ったあと、仲良く寄り添いながら裏庭でのことを話し始めた。
知ってるくせに、頑張って何も知らないフリをしてる智はちょっと面白い。
でも、ニノに手を離されたら寂しそうな顔をして、今は智を羨ましそうに見ている翔はもっと面白い。
笑いを堪えられない俺を翔がジロリと睨む。
「なんだよ」
「智が羨ましいって顔に書いてある」
「えっ···」
指摘してやれば、慌てて両手で顔を擦る。
そんなんで消えるか?
本当に面白い。
ふと自然と面白いと笑えている自分に気付いて、驚いた。
そういえばイチャつく2人を見てもあまり胸が痛まなくなっていた。
翔と知り合って3年以上経つけど、ニノを好きになってからの1ヶ月で今まで一度も見たことのない翔をたくさん見てきた。
今まで俺が見てきたのは、俺が好きになったのは、翔のほんの一部分だったんだと何度も思い知らされた。
ニノの言動に一喜一憂して、デレたりヘタレたり。
恋愛感情に振り回されてる翔は全然王子じゃないけど、今まで見てきた中で一番キラキラしていて。
一番幸せそうだ。
翔は特に隠していた訳でもないだろうけど、今まで見せなかった部分を引き出したのは紛れもなくニノで。
翔を幸せ溢れる笑顔に出来るのもニノで。
どうしたって敵わないと思ってしまう。
端から勝負する気もなかったけど。
まだ翔のことを好きだと思う。
けれど、この気持ちは友情からのものだけになりつつあるのかもしれないな。
もしかしたら、やっとこの想いを消化することが出来るのかもしれない。