第18章 バレンタイン
でも、俺は気付いてしまった。
「それニノも聞いてた?」
「聞いてた」
「ちなみにニノからチョコもらった?」
「もらってないけど」
翔は少し拗ねたような口調になるが、今はそんなの構ってられない。
ニノは翔の気持ちを知らない。
片想いだと思ってる。
もし先にニノがチョコを渡していれば。
その後に翔の言葉を聞いていれば。
そうしたら翔の気持ちに気付いたかもしれない。
でも実際には渡す前に聞いてしまった訳で。
翔の言う好きな人が自分だって知らないニノは、失恋したと思ってるんじゃないのか?
ニノが落ち込んでいる理由が分かって、大きなため息が出た。
「なんだよ?」
何も分かっていないらしい翔に、またため息が出る。
どうしたもんかな。
翔がビシッと告白すれば解決するけど、それが出来ればこんなに長いことグダグダしてないよな。
翔が入口から誰かに呼ばれて会話が中断する。
翔はニノを何度も振り返っていたけど、智が寄り添っていることを確認してから教室を出て行った。
翔がいなくなったから、俺もニノたちのところへ行こうとしたら
「翔ちゃんに好きな人いるって知ってた?」
ニノが震える声で智に問い掛けるのが聞こえた。
『知ってるよ!!!お前だよ!!!』
って、たぶんその場にいた全員が思った。
声を大にして突っ込んでやりたい。
でも言えない。
本当にもどかしい。
あの子犬みたいな目で見られてウッカリ口を滑らすわけにはいかないと、みんなニノと目を合わせないように視線を泳がせてる。
「何?みんな知ってるの?」
そんな不自然な態度にニノが気付かないわけなくて。
本当、翔以外のことには鋭いんだよ。
その洞察力をほんの少しでいいから翔に向けてくれればいいのに。