第16章 正月
「ねーねー、みんなは何を願ったの?」
境内から出たところで雅紀が軽いノリで聞いてくる。
俺の願いごとは翔ちゃんの前では絶対言えないから、聞こえなかったフリをしてしっかり口を噤む。
そうしたら、潤くんが真顔で
「人に言うと叶わないとか言わないか?」
なんて言い出した。
「ええっ!本当!?」
雅紀が動揺して、確認するみたいに翔ちゃんを見る。
「どうだろうね?色んな説があるみたいだけど…」
「叶わなかったら困るから言うのやめよう」
翔ちゃんも否定しなかったから、雅紀は慌てたように両手で口を押さえた。
その様子がおかしくて、つい揶揄いたくなっちゃって。
「雅紀は言ってもいいよ」
「なんだよ!言わないよ!ニノこそ言えばいいじゃん!」
「叶わないって言われて言うわけないだろ!ばか!」
「ばかって言うな!ばか!」
まぁ、当然口ゲンカになるわけで。
でもこのいつものやり取りが楽しくて。
たぶん雅紀もそうで。
笑ってる智と、呆れ顔の潤くんと、優しく見守ってくれてる翔ちゃん。
翔ちゃんの手は、雅紀との口ゲンカの間もしっかり俺の手を握ってくれていて。
いつも通りの空気と翔ちゃんの手の温もりが、すごく嬉しくてすごく幸せで。
今この瞬間も大切な思い出になるんだって。
そう気付いたらもっと幸せな気持ちになった。
俺の願いごと早速叶ってる!
神さま、ありがとう!
どうかどうか今年1年ずっとこんな幸せな時間が続きますように…