第3章 手紙
実はここ数日、こんな風に手紙が毎日のように届く。
下駄箱と手紙の組合せは、嫌でもまだ忘れられない恐怖心を思い出させて。
忘れたいのに忘れさせてくれない。
初めて手紙を見つけた時は倒れるかと思った。
血の気が引いていくのが分かってもどうすることもできなくて。
様子のおかしい俺に気付いた翔ちゃんがすぐに抱き締めてくれた。
“大丈夫、大丈夫だよ”って。
俺の震えが止まるまで何度も何度も呪文みたいに繰り返してくれた。
さすがに毎日続いてるから少しは慣れてきたけど。
下駄箱を開けるのにもムダに気力を使う。
開ける前にぎゅっと目を瞑って小さく深呼吸して。
手紙が入っていないことを願いながら、えいやっと気合いを入れて開く。
そして期待が外れては落ち込む。
それが毎日のパターンみたくなってきてた。
なんて嫌なパターンなんだろ···
教室で手紙を開く。
どうしても1人で読む勇気がなくて、いつも翔ちゃんに一緒に見てもらってる。
「うぇ···何これ···」
最初に開いた手紙は、絹糸のような髪とか真珠の肌とか薔薇の頬とか。
どっかで見たようなベタな言葉で延々と俺の容姿を褒めてるだけで。
読んでて背中がゾワゾワする。
他の手紙も似たり寄ったり。
「ワケわかんない···キモチワルイ···」
翔ちゃんは完全に苦笑いだ。
「こんなのどうしろって言うの」
「どうもしなくていいよ。返事や感想を求められてる訳じゃないし、そもそも差出人が分からないしね」
「そうなんだけど···最近なんなんだろ」
今までもらった手紙も、今日のみたいのだったり、ポエムだったり···短歌みたいのもあったな。
ラブレターとは違う気がする。
告白とかじゃないし。
差出人不明のばっかだし。
本当になんなの?
意味不明なんだけど。
もしかして嫌がらせなのかなぁ···
翔ちゃんと仲良くなってから手紙が届くようになったから、翔ちゃんのファンからかなってちょっと思ったりして。
お前なんかが王子の隣にいるんじゃねーよ!!
···みたいな?
でも誹謗中傷とか書いてないし。
何だか分からないから余計に気持ち悪い。
翔ちゃんにも心配かけちゃう上に、こんな訳分からない手紙一緒に読ませてさ。
本当に申し訳ない。
思わず机に突っ伏して、深いため息を吐いた。