第1章 恋に落ちる
「おはよ、翔ちゃん」
「おはよ、カズ。ビックリした~!」
気配消さないでよ~なんて文句言ってるけど、目は笑ってる。
翔ちゃんは今日も朝から爽やかだ。
「ふふっ。翔ちゃん気付かないんだもん。驚かせたくなっちゃって」
「ちょっと早く着いちゃったから潤から借りた小説読んでたんだ」
翔ちゃんが本を閉じて鞄にしまった。
「行こっか」
毎朝うちの学校の生徒でごった返してる道も、この時間だと閑散としてる。
「潤くんってよく翔ちゃんと一緒にいる松本くん?」
ちょっと濃いけどキリリと男前な松本くんは、翔ちゃんと並んでも引けを取らない。
二人並んだところはかなり絵になる。
「そう。あいつ色々読むから、時々おすすめの本借りるんだ」
「へぇ~」
学校に近付くと、どこかの部活が朝練している声が聞こえてきた。
「翔ちゃん部活入ってないの?」
「うん。中学ではサッカー部だったんだけどね。生徒会もやってたから忙しくて」
しかも翔ちゃんは生徒会長だったと聞いた。
考えただけで大変そう。
俺には無理。
「高校は部活必須じゃないから入らなかったんだ」
「生徒会に入るの?」
「声は掛けられてるけどね···去年忙しかったから今年はのんびりしようかと思って断った」
「そうなんだね。俺も帰宅部だよ」
俺は面倒くさいって理由だから、翔ちゃんと一緒にしたら失礼だけど。
「断っておいて良かったな。その分カズと一緒にいられるから」
キラキラ今朝も翔ちゃんの笑顔は眩しい。
翔ちゃんはこういうこと普通に言えちゃう。
早く慣れないとね。
いちいちドキドキしちゃって身が持たないよ。
教室にはまだ誰も来てなかった。
ふと、翔ちゃんと一緒じゃなかったら学校に来るのが怖かったかもしれないと思った。
翔ちゃんとの約束があったから余計なこと考えずに済んだ。
こんなに穏やかな気持ちで登校出来たのも、翔ちゃんのおかげ。感謝しかない。
「俺一番に来たの初めて」
誰もいない教室は静かすぎて変な感じがした。
いつもあんなにうるさいのに、全然違う場所みたい。
「早すぎる?明日はもう少し遅くする?」
「ううん、大丈夫」
学校ではいつも大勢に囲まれてる翔ちゃんを今だけ独り占め出来る。
少しでも長く二人だけでいたい···なんて
俺の頭の中は、昨日から恋する乙女モードのままみたいだ。