第10章 夏休み4
ーMsideー
8月に入ったら翔たちが学校に来なくなった。
図書館が開いてないらしい。
夏休みは毎日開館するわけじゃないんだな。
俺は変わらず美術室に通ってる。
弁当作るのも、智の隣で宿題すんのも、バスケ部連中がいる日は一緒にバスケすんのも、すっかり俺の日課になった。
結局部活もバイトも始めないままだけど、なかなか充実した日々を送れている。
美術室で智と過ごす大半の時間は、会話もなけりゃ目が合うことすらない。
お互いがそれぞれのことしてるだけ。
でもそれがすごい居心地がいいんだ。
女の子と遊んでた時よりずっと心が満たされてる。
集中してる智は綺麗で。
勉強の手を止めて、キャンバスに向かう真剣な横顔にぼんやりと見惚れていたら、智の腹が盛大に鳴った。
智の集中スイッチが切れた合図だ。
智はパチパチとまばたきすると
「腹へった」
それまでの真剣な顔が嘘のように、一瞬でいつものふにゃふにゃに戻った。
「お疲れ!ほら、手洗って!」
声を掛けながら弁当を広げて、すぐに食べられるよう準備する。
智は本当に美味そうに食べてくれるから気分がいい。
好き嫌いもアレルギーもないから自由に作れるし、作りがいがあるってもんだ。
智の食事が落ち着いた頃に、気になってたことを聞いてみる。
「なぁ、美術部って他の部員なにしてんの?」
毎日来てるけど、智以外のやつをほとんど見ない。
「何してんだろうな?うちは特に課題とかもないから夏休みに来るほど熱心なやつは少ないんじゃない?」
「顧問も来ないし」
「好きにやれって感じだからね。聞けば答えてくれるけど、基本的には放っておいてくれるから楽でいいよ」
「ふーん」
まぁ、顧問や他の部員が来ないおかげで部外者の俺が堂々とここに居られるんだけど。