第17章 理由
昼の忙しい時間もなんとか切り抜け、ようやく最後の客が帰り、閉店時刻を迎える。
そそくさと帰る準備をしている広瀬が見えたので、声を掛けておく。
「広瀬!」
「…なに。」
「今日話したいことがあるから、まだ帰んなよ。」
「…分かった。」
黄瀬は俺たちの空気を察したのか何も聞いてこない。
いつもより早く準備を済ませると、お疲れっスと言って店を去っていった。
店内に二人きりになり、重苦しい空気が流れる。
だが、それを打ち破るように広瀬が強気に発言する。
「今更何の用?私、謝る気は無いから。」
「そのことだけど、なんであんなことしたんだ?」
「…はぁ?」
「だからあんなことした理由はなんだ。」
キッチンとカウンターを挟んでの会話。
広瀬は俺を嘲笑うかのように答える。
「理由なんて無い。ただ一花が絶望する顔が見たかっただけ。」
その答えに、自分の頭に血がのぼるのが分かる。
だが、今日はわざわざ喧嘩しにきたわけじゃない。
広瀬だって何か理由があってあんなことしたはすだ。
俺たちが付き合うことになってから、誰よりも応援してくれたのは確かにこいつだった。一花にとってこいつを失うことはとても辛いはずだ。
強がって、もういいとか言ってたけど、その時の一花の顔は辛い以外の何物でも無かった。
「ならどうしてそこまでして一花を悲しませようとした。いや、…悲しませた。」
「…どういうこと?」
俺は、一花が広瀬と俺との間に何があったか全て知っていること、その上で広瀬には何もしないように言ってきたこと、全て話した。
「一花にとってお前はそれだけ大切な存在なんだよ。なのにどうして傷付けた?なぁ、教えてくれ。」
「………。」
「広瀬。」
広瀬は一度唇を強く噛んだあと、意を決したように話し始めた。