第16章 相談
「そうか。でも、今日はちょっと遅くなるから待っててくれるか?」
そう言うと、もちろん、と笑顔で返事をしてくれる。
『私こそ忙しいのにごめんね。』
「いや、いいんだ。俺もお前とゆっくり話したかったから。」
少し照れたような反応をする一花。
その反応に自分がデレデレするのを感じる。
急いで顔を引き締めようとするけど、黄瀬に見つかってしまった。
「火神っち〜!何仕事放ったらかしてイチャイチャしてんスか!?」
「わ、悪りぃ。」
「もう否定しないんスね…。」
何故かガッカリしたような反応を見せ嘘泣きをする黄瀬。その様子に一花が笑顔になる。
『ふふっ、黄瀬くんは相変わらず面白いね。』
「ん〜…、あんまり嬉しくないッス…。」
「ハハッ。良かったな、黄瀬。」
「もう〜!二人とも意地悪っス!」
そうやって三人で話していると、広瀬が水を差すように冷たい声で話す。
「まだ仕事中なんだけど。」
その声に一瞬の沈黙が流れるが、すかさず黄瀬が空気を変える。
「ご、ごめん、芽美っち!そうっスよね、さぁ、仕事仕事!」
『芽美…。』
昨日のことがあって少し気まずい一花は、小さく声をかける。
でも広瀬はその声を聞こえてないフリをしてさっさと仕事に戻っていった。
「アイツ…!」
急いで追いかけようとするが、一花に腕を掴まれる。
『ごめんね、大我。もういいの。』
「でも…。」
『大我は私のそばに居てくれるんでしょ?』
「当たり前だ。」
『なら、それだけで十分だから。』
そう言ってエレベーターへと車椅子を進める一花。
「一花、…なるべく早く終わらせるから。」
『うん、待ってるね。』
そう言って厨房を出て行く一花の後ろ姿は少し寂しそうだった。