第15章 和睦
あれからあっという間に時間が経ち、風呂の時間になる。
寝室に入りやはり疲れていたのか眠ってしまっている一花の顔を覗くと耳へと流れるように涙の跡がついていた。
それを見ると自分がこうさせてしまったのかと、さっきまでの自分を心の中で激しく叱責し心底悔やむ。
そんな俺とは裏腹にどこまでも綺麗な寝顔の一花。
その小さな頭を撫で涙の跡にキスを落とす。
何がお前をそんなに苦しめてる?
こんなに近くに居て、分からない事なんかないと思っていた。だけど、言葉にされないだけでこんなにも二人の距離が乱れるなんて。
俺たちは特別なんかじゃない。普通の恋人同士なんだ。
その事実は少し悲しくもあったが、嬉しさの方が勝った。
そのまま辿るようにキスを続けていると一花が、んっと小さく声を漏らす。
呼吸をするために薄く開いた唇。
俺はそれに引き付けられるように唇を重ねた。
何度味わっても満たされない。俺だけのモノのはずなのに、一花はいつもどこか遠い。
これが心から求めるということなのか。
あんまり夢中で口付けていたら息苦しくなったのか、一花が目を覚ました。
『んっ、大我…?』
「すまねぇ、風呂の時間だ。…起きれるか?」
『うん。』
一花の細い首の下と背中に手を入れ上体を起こす。すると、一花が俺の首に手を回すから膝下に手を差し込みそのまま抱き上げる。
風呂に向かう途中一花が静かに口を開く。
『ねぇ、大我。』
「ん、どうした?」
『…さっきはごめんね。』
「いや、別に構わねぇよ。それより体の調子はどうだ?」
『うん、もう大丈夫。』
そう言って少し少し微笑む一花。
「そうか、なら良かった。」
久し振りに見たようなその笑顔に、胸がキュッと締め付けられた。