第11章 お仕事
今ようやく10時を回り、閉店の時間になった。
「ありがとうございましたー。」
最後のお客様を見送り、"closed"の札を掛けに行く。
「今日も忙しかったッスねー、芽美っち。」
「そうだね。火神の料理は無駄に美味しいからね。」
無駄ってなんだよ。心の中で突っ込んでおきながら、二人の会話を聞く。
「一花っちはそれを毎日食べてるんスね〜。何か羨ましいッス、火神っちが。」
「何で俺なんだよ!今会話の流れ的に一花が羨ましいって事だっただろ。」
「だって〜、あんなに可愛い子、火神っちにはもったいないッスよ!火神っちだってイケメンだけど、ちょっと強面ってゆうか、一花っちみたいな天使がなんで火神っちなんだろうってゆうか…。」
失礼だな。
「ほんとそうだよねー。私もよりによって何でこんな奴とって思ったよ。けど、火神なら良いかなって。何より1番一花の事を大事にしてあげてるし、あの子も火神無しじゃ生きていけませんって顔してるし。」
「広瀬…。」
「…そッスね。なんやかんやでお似合いッスもん、二人。」
「そ、そうか?」
「そうッス!火神っちも一花っちの事が好きで仕方ありませんって顔してるし。」
「うっせ…。」
黄瀬達としばらく話していると、厨房のドアを開ける音が聞こえた。
「一花…?」
俺は急いで厨房に回る。
そこには少し眠そうな一花がいた。
うちにはホームエレベーターが付いてて一花が降りてこようと思えばいつでも降りられるようになっている。
「どうした?何かあったか?」
俺は床に膝をつき、一花と目線を合わせる。
『ううん、何も。ただ少し遅いなと思って、何かあったのかなって。』
俺は一花の頭を優しく撫で、その頬にキスをする。
「何もねーよ?黄瀬達と少し話してただけだ。」
『そっか、なら良かった。』
安心してように微笑む一花。無性に愛しくて唇に自分のそれを合わせた。