第5章 過去
一花を椅子へと座らせ、朝食の準備を始める。
今日は一花の好きなフレンチトーストだ。
卵を割り、牛乳と砂糖を入れ卵液を作る。
パンを卵液に浸している間に、一花の好きな紅茶の準備をする。
一花の喜ぶ顔が見れると思うと、自然と俺の口角も上がる。
それに気づいた一花が、俺に話しかける。
『大我、何かいい事でもあったの?』
笑顔でそう問いかける一花。
「いや、別に。…幸せだなと思っただけだ。」
『ふふっ。そっか。』
簡単なサラダを作り、さっきまで卵液に浸していたパンを焼き始める。
バターの香りとともに、一花の可愛らしい鼻歌が聞こえてくる。
なんて幸せだ。
一花の声を聞きながら、一花の好きな物を作る。何気ない事だが、俺は堪らなく幸せを感じるのだ。
一花もふわりと香るバターに気づいたのか、俺を見つめて
『いい香りだね。』
そう一言漏らす。
彼女と同じ空気を分け合っているような気がして、なんだか嬉しくなった。
こんがりと焼けたフレンチトーストをお皿に盛り付け、温かい紅茶をカップに淹れる。
サラダにドレッシングをかけ、それらを一花の元へと運ぶ。
『わぁー!大我!すっごい美味しそうだね!』
少し興奮した様子で、俺を見る一花。
「なら良かった。じゃあ、食べようぜ。」
二人で一緒に手を合わせ、同じご飯を食べる。
一花は、フレンチトーストにたっぷりのメープルシロップをかけ
『んー!美味しい!』
本当に嬉しそうにそう言った。
ーーこの笑顔を、俺が守りたいと思ったのはいつぐらいだっただろうか。