第18章 繋がる
玄関を開けると、一花がいつもの笑顔で待ってくれていた。
『お帰り、大我。』
「ただいま、一花。」
普通の恋人同士みたいにありきたりな言葉を交わす。
「待たせちまって悪かった。」
『ううん、大丈夫。そんなに待ってないよ。』
一花の車椅子を押しながらリビングへと向かう。
二人ともいつものように接していたがその様子はどこかぎこちなかった。
特に一花は何度も手を擦り合わせたり、膝を摩ったりして落ち着きのない様子だった。
一花を抱き上げ椅子に座らせ、俺もその向かい側に座る。
「一花。」
『何?』
「今日はごめんな。一花が止めてくれなきゃ広瀬のこと傷付けるとこだった。」
いくらあいつが酷いこと言ってたからといって殴っていい理由にはならない。
『もう終わったことだもん。気にしなくていいよ。』
「でも、俺はお前の大切な友達を傷付けようとしたんだぞ…?」
『私を想ってのことでしょ?』
「そうだけど…、」
『なら、いいの。結局怪我は無かったんだし。』
「け、けど…。」
『もうこの話は終わり。それよりも私、大我に話したいことがあるの。』
そう言うと、再びソワソワしだす一花。
夕方言ってた話したいことか…。
「分かった。…それで、どうしたんだ?」
『………。』
なかなか決心がつかないのか黙ったまま俯く一花。
そんな彼女の手を握り優しく促す。
「一花、ゆっくりでいいからな。一花が話したい時に話してくれ。」
そしてしばらくその手を握り続けるが話し始める様子はない。
恐れているようだった。
自分がその話をする事で俺たちの関係にヒビが入ってしまわないか。
俺はその不安を取り除いてやりたくて一花の隣に移動し、その細い体をそっと抱きしめる。
「無理しなくていいんだぞ。」
俺の腕で閉じ込められているような体勢の一花は、俺のTシャツの胸辺りをギュッと握りしめる。
頭をグリグリと押し付けて、葛藤している。
その頭を優しく撫でて一花が話し始めるのをゆっくりと待った。