第17章 理由
俺は正直不本意ではあるが、一花のことを思うと俺まで嬉しくなった。
やっぱり仲良くしてる二人を見てたいしな。
しばらくしてから泣き止んだ二人は、笑い合いながらお互いの体を離した。
「ハハッ、一花、目真っ赤。」
『芽美もだよ!』
それからもしばらく二人で話したりして笑い合っていた。
「なぁ、そろそろ時間だぞ。」
水を差すようで申し訳無かったが、時間が遅かったので二人に声を掛ける。
後、俺が広瀬に話したいことがあったから。
「なぁ、一花。先に上がっててくんねぇか?」
『どうして?』
「広瀬と話したいことがあるんだ。」
『…分かった。』
一瞬戸惑った一花だったが、何かを察したように了承してくれた。
『芽美、気を付けて帰ってね。』
「分かった、本当にごめんね。」
『もういいよ。じゃあまた。』
「うん。」
一花の車椅子が厨房を抜け、エレベーターが閉まる音が聞こえた。
自分の鞄を持った広瀬と俺の間に気まずい空気が流れる。
「…火神も、ごめんなさい。本心じゃないって言ってもあんな事言ったのは許されないと思ってる。本当にごめん。」
「…あぁ、もちろん許すつもりはねぇ。…だけど、お前以外に頼める奴が居ないから先に頼んどく。一花が困った時、俺にも相談できないような時はよろしく頼む。」
「えっ…?」
「俺だってお前に頼むつもりなんてなかった。…でも、一花が女として頼れるのはお前だけなんだ。今回のことを水に流すようなことはできねぇけど、これからもお前の力が必要だ。…だからそばにいてやってくれ。」
「火神…。」
「引き止めたようで悪かった。気ぃ付けて帰れよ。」
俺も厨房に戻る。
「……。ありがとう、火神。」
「礼なんかいらねぇ。早く帰って、とっとと寝ろ。」
「…はい、店長。」
カランコロン
ドアのベルは何事も知らないかのように、いつも通りの軽快な音を鳴らす。外には広瀬が帰路に着くのが見える。
俺も帰るか。
愛しい人が待つ家に。