第6章 因果
「ああ、そうだよ。何か問題でもあるのかね」恐らく優凪の事だろう、と森は察しをつけた。
「彼女なら看護助手ーーとは名ばかりの、異能力強化実験に付き合って貰う予定だよ」「異能力強化、ねえ」太宰がコップに何かしらの液体を注ぎながら云った。
「そうとも。彼ーー研究員の三浦君の資料を少し見ただけでも、なかなか興味深い内容でね。ーーところで太宰君、その液体はなんだい?」
「これ?スーパーで買ってきたオレンジジュースだよ。色々混ぜたらいい感じの味になって飲みやすいかと思って」そう云いながら太宰はコップに先程入れたオレンジジュースにプラスして『混ぜるな危険』と書かれた容器の中身を注ごうとしていた。
「即刻止めたまえ、太宰君」「なんで?」きょとんとした顔で太宰が返した。「だってさーー詰まんないんだもん〜〜!!森さんは面倒くさい仕事押し付けてくるし、生きるのは面倒だし、もう嫌だよ、出来るだけラクに死にたい〜〜!!イヤだイヤだ!!」
「いいから私の云う事を聞きたまえ、太宰君。君には『来る日』の為に生きていて貰わねば困るのだよ」「じゃあその『来る日』はいつ来るのさ!?いつも来る来る詐欺ばっかりじゃあないか!!」
太宰の云う事も尤もだ、と森は思った。何せこの少年には自身の野望の全貌を伝えて居ないのだから。
「ちゃんとその時が来たら云うとも。其れにラクに死ねる薬の調合法も教えてあげよう」「本当かい!?!?」
瞬間太宰の瞳が煌めいた。其れは正しく生の輝きとでも云う様な類のものだったが、残念ながら太宰の場合は自殺に関する事でしか今はその輝きは得られないようだった。
「約束だからね!」「はいはい」さらりと受け答えする森。
「ところで森さん、さっきの話だけど、織田作も来る?」
「織田作…ああ、あの最下級構成員の彼かね。彼なら私と首領の取引で優凪君の仕事のパートナー兼教育係に任命しているから、来るかもしれないね」
「ふーん」自分から聞いておいて、興味のある様な無いような返事を返す太宰。
「何か問題でもあったかね?」「いや全然?寧ろ非常に興味深いと思って。ーー優凪ちゃんと組ませたのにも、何か理由があるんでしょ?折角の異能力者なのに殺しをしないマフィア、織田作之助。彼を有効活用するには異能力者に異能力者をぶつけるしかない」
森はひやりと首筋が冷えていく思いがした。
