第7章 旅行
旅館に到着して受付中、お姉さんがわたしをチラ見した。
「お連れさまは彼女さまですか?可愛らしい方ですね」
「え"!?」
わたしは瞬きした。やだーそんな彼女だなんて、照れるなあ。
「い、いえ」と軽く否定したら、となりにいた田中先生が、用紙を書いてる手を止めてから顔を上げた。
「いや、嫁です」
受付のお姉さんに微笑んだ先生は、鍵を受け取る。普通に廊下を歩き出した。わたしは慌てて追いかけた。
「ちょいちょい、せ、…じゃなかった!健斗さん、ななななんで」
受付のお姉さん、めっちゃびっくりしてましたよ??めっちゃわたしに謝ってきましたよ?めっちゃ困ってましたよ?
とは言えない。
「あの、まずいんじゃ…」
「ん?嫁の方が面白いだろ?」
おもしろい?どういう事だ。
「オレが予約した部屋はカップル部屋なんだよ。嫁にしてた方が楽だろ?誰もいないんだから、めいいっぱい楽しもうぜ。な?」
三割増で笑う田中先生が眩い。確かに車で1時間以上かかる場所に来た。だれか知り合いに会う可能性は低いと思う。
「そう……ですね。じゃじゃあ、おおおおくさま、で…」
こっぱずかしい。言い慣れてない。とにかく恥ずかしい。死んじゃう。むり。目は泳ぎ過ぎてバカ丸出しだよ。
わたしの姿を見た田中は楽しそう。頭をくしゃりと撫でた。
「ああ、じゃあ奥様よろしくな」
「っ!!え、あ…はい」
先生はサングラスを外した姿もまた、素敵だ。バカなわたしと大違い。
革のジャケットにジーパン姿。滅多に見れない私服だよ。学校のクラスメイトに目撃でもされたら、たぶんリンチだろうな。冬休み中で良かった。