第1章 12月7日
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ロッカーの鍵を開けて、鉛筆と消しゴム、A3判の板、デッサン用の画用紙、そして羽箒を取り出していれば、前から友人数名が歩いてきた。
「あれ、何してるの?今日バイトは?」
そうよ、課題は終わったんだよね?なんて、とどめを刺してきた友人達に、さっきの田中先生と同じ能面ヅラして、返事を返した。
「今からやるんだよね、すっかり忘れちゃっててさーー」
あはははーー、と頑張って笑ったけどね、心の中じゃ大号泣だからね。
「……うわ、ヤバくない!?田中ッチって課題の期限を守らなかったら、容赦ないって知らないの!?」
そうだよ、あんた何考えてんの!?先生に嫌われても知らないからね!?
なんて友人の、崖から落とされるような叱咤を受け、胸が痛んだ。田中先生にだけは、好かれなくて良いとは言わない。
だけど死んでも絶対に嫌われたくは無かった。だから常々、先生の授業は誰よりも真剣に受けていた。友人の言葉を受け、グサグサと鋭い刃が胸に突き刺さった。
自業自得だとは正にこの事だなぁ……なんて暗くなる。けど、仕方ない。過ぎた話をくよくよしても仕方ないんだから。
「兎に角、頑張って仕上げるよ」と引きつり笑いを浮かべて、足早に友人達の間を抜けて通り過ぎた。
あれ?ちょっと待って。さっき、さらっと流すように容赦無いって言ったよね?何が容赦無いの!?
後ろから「市川ーー、頑張れー」「終わったら、一緒に遊ぼうーー!」なんて薄い声援を受けながら、とぼとぼ美術デザイン教室へ向かった。
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