第6章 先生のお家 R18
「せんせ、い?」
お風呂から上がると、田中先生はいない。カタンと微かな音が聞こえて、となりの扉を開けた。
「先生?なにしてるんですか?」
後ろから軽く背中を叩くけれど、返事がない。黙ったままの背中。チラッと横から覗いた。
「…ひぃっ!す、すいません!」
いちばん、ふれたらダメな時間!!
「え? ああ悪い。デッサンに集中してたわ。風呂入ったか?ちゃんと髪は乾かしたか?」
田中先生は持っていた鉛筆を机に置いて振り返った。手にはスケッチブック。モチーフの腕時計が机に置かれていた。
「す、すみません、ごめんなさい。あの、お邪魔しました。お風呂ありがとうございます。凄く広くて気持ちよかったです」
口早に言い切った。
早く出て行かなきゃいけない。
「んなビビるなよ。悪かったって。ちょっとやりたくなってな」と硬い表情を緩めた。
そのあと、わたしの髪に、田中先生はそっと指に絡めて優しくふれた。
「髪、ちゃんと乾いてるな。濡れてたら風邪を引くからな」
顔を傾けて
優しい眼差しでわたしの目を見て
微笑んでくれる。
「はい。ありがとうございます」
先生が泣くほど優しい。ぎゅっとしたい。
でも、いまは邪魔しちゃいけない。
「先生、今日は…本当にありがとうございました。凄くわたし嬉しかったです。じゃあ……先に寝ますね」
「ああ、おやすみ。寝室はわかるか?」
「はい、大丈夫です!おやすみなさい」
わたしは笑顔で部屋を出たけれど、本当は少し寂しい。いっしょに寝てほしかった…なんてね。
わたしは寝室の扉を開けた。
部屋の中央に大きなベッドにある。
ダブルベッドだろうか。
大きな白い布団の中に潜った。先生の香りは落ち着く。香水の匂いがする。心地よくて、すぐにまぶたを閉じた。
小さな鉛筆の音が、
となりの部屋からカリカリと聞こえる。
優しい子守り唄を聴きながら、
わたしは知らないうちに
眠りについていた。