第5章 奴隷として
ちょうど、先生の車に乗り込んだときに、カバンのスマホが鳴った。画面を見ると、お母さんからだった。
「もしもし?」と通話をオンにすれば、
お母さんはすぐに話し始めた
『市川、もしもし?今どこにいるの?』
「え!?あ、いや、その…家に帰ってれる途中だよ??あと、30分ぐらいで帰るから」
車の中だよ、なんて言えない!
先生の顔を見て、つい困った顔をしてしまった。でも言えないよ。言えるわけがない。
"先生に服を買ってもらってご飯をご馳走になっていたの"と、話せるわけがない。
お母さんは、『えーー』と不満そうな声で、『仕方ないわね』と溜息がスマホから漏れた。
「え、なに?なんかあった?緊急?」
『じつは、お父さんの遠方の親戚の人が』
とお母さんは理由を話し始めた。
両親は今から新幹線に乗って通夜と葬儀に出席するらしい。わたしには事情を帰ってから伝えるつもりだったが、お父さんが早く出たいと急かしたせいで、いまタクシーに乗り込んだらしい。
身内だけで式を済ませるため、
案の定わたしは留守番だと言われた。
『2泊3日の夕方に帰るわ。お金は机の上に置いてるからね。何回か留守番したことがあるから大丈夫ね。じゃあ行ってくるわ』
「うん、いってらっしゃい、気を付けてね」
とわたしは通話をOFFにした。先生は信号が赤になってブレーキを踏んだ。家まであと10分ぐらいだ。
「親がいないのか?」
「そうなんです。お葬式に出るみたいで。でも以前も危篤だと言われて、わたしだけ留守番したことがあったので、2、3日ぐらい大丈夫です」
「そうか…」と田中先生はアクセルを踏んで車を走らせる。どこか先生の表情は悩んだように見えた。