第5章 奴隷として
「校長先生が終業式に話した内容を覚えているか?女子高生が家にいたときに強盗に遭った事件だ」と先生は話す。
それは数日前に事件が起こった話で、女の子は包丁で脅され怪我をした。でも幸いなことに、犯人はすぐに捕まった。
「窓ガラスをハンマーで殴って夜中に侵入してくるヤツや、ベランダから入ってくるヤツもいるからな」
最近物騒な事件が多い。一人暮らしの女性や一軒家でも、若い女の子が狙われる事件が増えている。それは自分の両親にも注意するように、と先日言われたばかりだ。
「…気をつけます」と言った。けれども、さっきまで余裕だったわたしの表情は硬い。萎縮してしまう。
しかし、そんなことが言えばキリがない。
「先生、だいじょうぶですよ?心配しないでください!ひとりでもいけますよ、2、3日ぐらい。だいたいバイトも休みだし、家でのんびりしてます」
と、言うのに先生は黙ったまま運転する。相槌すら打たないで、なにか考え事をしてるご様子だ。
そういや。
最近バイトに新人が大量に入ってきたせいで、わたしが入らなくてもバイトは回るのだ。ガンガン働いていたのに、最近はめっきり減ってしまった。まあ、先生が土日祝だけと言ったけれども、それすら減りつつある。
うーーーん。難しい。
「市川、着いたぞ」と田中先生は車を停車させた。シートベルトを外したわたしの腕を握った。
「……着替えを用意して戻って来なさい」
「え?? どうしてですか?」
頭にハテナが飛ぶ。
「俺がお前の家に泊まるわけにいかないだろう?だったら俺の家に来い。お前をひとりで過ごさせるつもりはない。心配だからな」と先生は言う。
「なんかあったらどうするんだ」なんて言うけれども、いま先生の家に来いって言った??え、ええ?
ーーーえ???!
「いやいや無理です!ではなく……そ、そんな申し訳ないので」
ぜったい緊張して息ができない。と断ると、先生の目が怒り出した。
「いいから黙って荷物を取ってこい」
家の近くで停車させた先生は少々イライラ気味で。恐い!睨んでるし。ハンドルにかけた指をトントン叩き始める。
「わ、わかりました!い、行ってきます…」と、わたしは制服の入った紙袋を持ち、急いで車から出た。