第5章 奴隷として
デザートを食べ終え、お会計の場で金額を聞いたわたしは驚愕した。平然と支払う先生にわたしは目が離せない。
「ほら帰るぞ」と腰に手を置かれてエレベーターの中に入ったけれども、
いやいやいや。
正月とクリスマスをいっぺんに支払った金額だよ。これはさすがに、「ごちそう様でーす」で終わらせれない。
ゆっくりエレベーターが降りていく。夜景を見下ろせるガラス張りだ。
「せ、先生! あの、お金はまたお返しします。さすがに申し訳ないので……バイトしてるし、来月には」
返します、と最後まで、わたしは言えなかった。
「いらねーよ」と、先生に頭と腰を強く引き寄せられたからだ。
そのまま唇を奪われる。口の中で苦いコーヒーの香りと、先生の好きな香水が身体中に広がる。
「これで十分。ごちそうさま」
耳もとで田中先生の甘い声で囁いた。
「驚いたか?」
至近距離で笑った先生はもう一度、わたしにキスをして硬い胸元に引き寄せた。
「っ…先生、いきなり過ぎます…」
どくんどくん。心臓が強くなる。
田中先生といると心臓がもたない。
「悪い。抱きしめたくて我慢してたんだよ。離れがたいって、こういうときに言うんだろうな……エレベーターが1階に着くまで抱かせてくれ」
優しい先生の心音が聞こえる。
あたたかい先生の身体はコートの上からでも伝わる。気持ちいい。
「先生…ありがとうございます今日」
「ああ…」
ぎゅっと強く抱きしめられたわたしは
嬉しくて嬉しくて涙がこぼれそうだった。