第5章 奴隷として
目の前で青い火が上がる。
ステーキにバーナーで焦げ目がついていく様子をガン見していた。ウェイターさんは肉の焼き目を確認したあと、にっこりこちらを微笑んで、わたしの席にステーキを置いた。
ああ、バカ丸出しだけど仕方ない。
見たことない。食べたことない。ないないだらけなんだから。よだれが垂れる。
「いただきます……」
慣れないフォークとナイフを使い、肉を切る。力を入れれずに切れた。ゆっくり口に入れる。たちまち肉汁が口の中に広がってトロけた。
「お、おいしい……!!泣けます…なんでこんなに美味しいんですか?」
本当は叫びたい。家ならギャーギャー叫んでる。学校なら友人と飛び跳ねてる。スーパーで売られる牛肉すら、なかなか食べる機会がない。豚か鶏肉しか我が家では提供されない。
田中先生も口に入れあと、少し黙ったあとに、ふっと笑みを浮かべた。
「あーやっぱうまいなー……A5黒毛和牛は違うな。あ?今日は特別だ」
「あ、ありがとうございます」
A5ってなんの数字?スーパーで売られる安売りの牛肉は何ランクなんだろう。今度調べなくては。
あークリスマスって最高。もう毎日がクリスマスでも良い。スープもパンもサラダも全部美味しい!幸せーーーー。口が緩みまくる。
デザートは苺のショートケーキ。クリスマスバージョンで、チョコレートで作られたサンタとトナカイが添えられている。ドリンクはホットミルクティー。甘い紅茶の匂い。先生の席にはブラックのコーヒーが置かれた。
「せ、…じゃなかった。健斗…さん、デザートは食べないんですか?」
「あー、いらねーわ。甘いヤツは好きじゃないんだよ。これで十分」
とコーヒーを口にした先生はカッコよくて。
微笑したあと、夜景を見てる。
「どうした?食べないのか?」
「あ、いえ、た、食べます!」
食べてるあいだ、
先生の横顔をたまにチラ見した。
ズルい。大人って。落ち着いてる。
わたしも先生と同じ歳になれば、ホテルに来ても、はしゃいだりしないのかな。いま、先生を見てるだけで泣きそうになる。
恋は惚れた方が負け?
なら、わたしは大敗だろうな。
キラキラ先生が輝いて見えるの。