第5章 奴隷として
「まさか……健斗さん…とかが良いんですか?」
こっ恥ずかしい。なんで先生の下の名前で言わなきゃいけないの?無理無理無理無理!泳ぐ目を見て先生は、面白そうに笑う。
「ああ、いいな。それでいこうぜ。俺と外にいるときはそう呼べよ」
ぜっったいに今、わたしの変な反応を面白がってる。口端が上がる先生は悪い顔だ。
無理無理無理無理無理無理!
「もう一度言えよ、ほら」
「え。え、えぇ?」
えーーーーーーーーーー。やだーー
なんで楽しそうなのーー。
「おい、言え」
早く料理来てーーーーー。
という願いむなしく、まだこない。
く…くそぅ…。
「…………健斗さん……これで良い?」
もう勘弁して欲しい。顔が紅潮してしまう。わたしは顔を隠すように夜景を見た。とうとう顔を手で隠した。悔しい悔しいーー。早くきてください、お料理さまーー。
「市川、そんな照れんなよ。……俺まで照れるだろうが」
「うぅ……すみません」
もうどちらかと言えば
拗ねたようなわたし。
目は合わせていない。
「愛してる。市川」
幻聴が聞こえた。目をまん丸にして田中先生を見た。
まあなんて涼しい顔だ。普通な顔でウェイターから料理を受け取る先生が憎らしい。
「いま、いま、いま」
「なんだ?なんか聞こえたか?」
すっとぼけた先生はカッコいい。
ああ、違う。憎らしい。