第5章 奴隷として
「あー、そこはいい」
背中から声がした。
「なんですか、それ」
先生が真後ろに立って、わたしの掴んだ本を取った。本が反対向けになっていたから直そうと思ったのに。
「忘れてただけ、だからな」
先生は困った顔で言う。
ん?
なんのこと?
「あ!分かった!大人の本だ!だから先生焦ってんだ!」
と、大声で叫びたい。いや無理だけどさ。わたしは空気を読んだ。でも気になる。木になる。木になる。
とーーっても、気になる。
「……なに?」
「えーっと、なにかなーとか思ってーー」と、わたしが手を上げて本を奪おうとした。あーくそーー取れない!!
「お見通しだ。なんでもないって」
長身を活かして、田中先生は手をあげる。取れないー。高すぎー。もーぜったい怪しい。ますます見たい見たい。
「そんな顔するなよ、ほら、中身はなんでもないだろ?」
そう言って本を渡された。今なにか抜いた。紙?なにを抜いたの?
「あ、それ見たいです! 見せてくれたら何でも言うこと聞きます!」
「なに?なんでも……?」
口角を上げた先生が顔を傾ける。じりじりとつめ寄る。本棚で後ろに逃げれない。
「え…あ、えと……」
見たい欲求を満たしたいが為に、とんでもないことを口走った気が。しかし、あとの祭だ。でもでも、見たいものは見たい。
「で、出来る範囲で、頑張ります」
「ほらよ」
田中は、わたしに一枚の紙……ではなくて、写真を渡した。