第5章 奴隷として
「ここに座れよ」
ポンポンと田中先生は自分の太ももを軽く叩いた。
「………………え?」
相当な間を置いてから返事をして顔を傾けた。なに?……なに??
「じょ、冗談抜きで聞いてるんですよ。 あ、ほらお掃除とか、お片づけとか……なんか、採点手伝うとか!」
目が泳ぐ。わたしは必死に仕事を探した。なにを言い出すかと思えば、……意味がわからない。
「あ、じゃ、じゃあ、本棚の整理をしますね」と言った腕は掴まれる。
「市川。なに恥ずかしがってんだよ、ほら来いって」
グイッと、腕を引っ張って転けそうになった。椅子に座る田中先生の体に触れる。顔が間近にあって、先生がいつも愛用する、香水の甘い匂いが広がった。
「せ、先生……ごめんなさい」
「座れよ。恥ずかしがらないで」
「む、無理です! ど、どうして先生のひざの上に…乗らなきゃならないんですか??」
はにかんで言った。
もうやだ、顔が真っ赤だ。
「お前……忘れたのか? 俺の奴隷だろ?言うこと聞かねぇとダメだよなあ?」
先生がわたしを、間近で見つめる。
「う…。…そ、それは……」
「ほら、座れよ」
私の腰に触れる田中先生の手。なんで? どうしてこんなことに……?
「す、すぐ離れますから!」
「ほら、はーやーく」
「……わ、わかりました…」
わたしは先生のひざの上に、手をつき、肩に抱きついて、向かい合うように座った。先生がぎゅうと背中に手を回す。
足を開いて重なる姿は、
騎乗位の体勢だ。
「ふ、……かわいい顔だな」
近くで見つめる先生はからかう顔で笑う。わたしは顔が熱くて視線を横にずらした。
恥ずかしくて
でも、
触れれるのは嬉しくて
でも、歯がゆくて
へんな気持ちだ。