第4章 バイト
「おつかれ様でーす」
奥の倉庫から出て、社員さんに声をかけた。
レディースコーナーに2名、紳士靴コーナー2名、キッズコーナー1名だ。20代のお姉さんやお兄さん、30代の主婦の方々、あと……。
誰だ、あれは。
「おつかれー、市川ちゃーん」
「あ、おつかれ様でした、交代ですよー」
わたしと、主婦のパートさんは交代だ。今日の申し送りを聞いたあと、店長は、新しく入ってきた男の子を手招きした。
「市川ちゃん、今日から入る新人君だよー。君と同い年だって。まー、指導よろしく頼むねーー」
白髪混じりでエビスみたいな笑みで笑う店長。優しすぎて頼りない。でもそこがまた憎めなくて好き。
プルルルル……
「店長ーー、電話ーーー」
「あーー、はいはーーい!」
電話が鳴って社員に呼ばれて、店長は小走りでレジに向かった。メモ帳を取り出して何かを書いている。長引きそうだ。
「あ、よろしくねー」とりあえず挨拶しなきゃ。笑みを浮かべて男の子を見た。近くで見たら、めちゃくちゃカッコいい……。びっくりだ。
「仁です。よろしくお願いします。えーと、なんて読んだら良い?市川ちゃんでええ?」
目じりを下げて営業スマイルを
浮かべる男の子。目鼻立ちが整ったイケメン。スタイルも良いし身長も高い。
「あ、う、うん! なんでも良いよ。関西から来たの?仁君は」
私たちは喋りながら、不要になった靴の空箱を潰した。ダメだ。イケメンに免疫はない。田中先生もイケメン。だけど、ここまでフレンドリーでカッコイイ人はわたしの高校にいない。
自分の表情が、じわりじわりと焦りが見え出した。
「せやねん。去年引っ越ししてきてな。もう大学も決まったし、バイトしようと思ってん。よろしくな」
そう言って、またにっこり笑顔の仁くん。
ミルクティー色のふわふわの髪。服装は制服。だけどブレザーは脱いで、黒のズボンに白のカッターシャツ姿。数分しか喋ってない。なのに分かる。
この人、絶対モテる。
周りの目線が彼に集まっているのだから。