第3章 12月10日 R18
「バイト間に合うな」
服を整えて、何事もなかったように田中先生は、腕時計を見る。
わたしも壁時計をみた。PM5時27分。目の前にいる黒いカッターシャツを着た男は、余裕だ。
息切れしていない。大人って、こんな感じなのか。なんだろうか、イライラした。
シワになったスカートをパタパタと はたき、下着を身につけて、ソファから起き上がった。
途端に、ガクガク膝が笑う。腰に力が入らない。
「っと、危ない」
田中先生が、わたしの腕を優しく掴む。途端にメンズ香水の香りと、先生の汗っぽい匂いが広がる。
「っ!! ご、ごめん、なさい」
顔が熱くなる。先生が見れない。
ぎゅうって背中から抱きしめられている。
「……田中先生?」
わたしが聞くと、
先生の甘い声が耳にくすぐった。
「市川? すぐに離れるなよ。寂しいだろ? バイトまで送る。 悪かった。激しくやり過ぎたか?」
優しく、耳をかまれる。恥ずかしい。なんだろう。田中先生、すごく、甘い。大量の砂糖をまぶしたみたいだ。
「あ、だけど、田中先生、お仕事中じゃないですか!」
「残念。 俺は今日午後から有給とってたんだよ。じつは」
先生が、わたしの髪を分けて、うなじから言うと同時にキスをする。くすぐったい。
「車じゃ……目立ちませんか?」
振り返っておどおどしながら聞いた。
そんなわたしの姿をみて、間近で笑う田中先生。
「当たり前だろ、歩いていくよ。ほら、行くぞ」
わたしの頭を、くしゃって撫でて、田中先生は、頬にもキスを落とす。ちゅっと音がなる。甘い香りと情事の香り。
「は、はい……」
赤い。ぜったい頬が赤いはずだ。わたしは、マフラーをぐるぐると首に巻いて、赤さを隠した。