第3章 12月10日 R18
「と、遠くを……歩いてくれませんか?田中先生……」
私は落ち着かない。校舎を出て、バイトまでの道を、横で先生が並んで歩いてくれている。
それと同時に後方から突き刺さるのは、まだ帰っていなかった同期と後輩からの突き刺さる視線。
ああ……逃げたい。即刻この場から消えてしまいたい。
「なんで?だめだ、市川、身体の調子悪いだろ? 送っていくよ。万が一フラついて転けたらどうする」
いや、どうするって。
フラつくようなことをしたのは田中先生じゃないですか、
なんて言い返せない。
私は恨めしい目で見たが、当の本人様は視線に気づいて、顔を傾けて笑うだけ。3割増しの格好良さを見せつけられてしまう。
「ーー……!! も、もう田中先生……笑わないで、ズルい……。顔が熱くなりますから……」
湯気が出そうだ。こんな優しい田中先生に私は慣れていない。頭をぐしゃぐしゃして、ゆっくり、耳元を触り、頬にふれる。
「っ!!!」
指を口に触った途端、私は栗立ち、すぐに離れた。
「……な、ぁ……!!」
口もとを手で押さえた。耳まで真っ赤だ。田中先生は、私を見て肩を揺らしている。顔は、からかう表情だ。
「いや、口のところにさ、髪の毛当たってたから、直してやろうと思って」
「っ……け、結構です、子供じゃないんだから、そんなの……自分でできます……」
急ぎ足で歩いた。あとから先生がくる。
「そうだな……」
田中先生は肩を掴んで、私の耳元に手を添えて囁く。
「子供じゃ
あんなに可愛いく乱れないよな? 明日もやろうな? 可愛い市川をいっぱいみたいよ」
途端にゾワリと体が震える。また私は顔が真っ赤になってしまう。
「っ!! ーーいい、です!」
声が出てこない。
なんなの、この先生……超意地悪だ。
そして、先生の笑った途端に響くのは、悲鳴に似た先輩後輩同期の声だ。
「田中先生……今笑った?」
「ねえ……田中ッチ、ご機嫌じゃん……」
ボソボソと聞こえる。だめだ。私の席は明日ない。
私は明日から先生には奴隷にされて、同期と後輩からは憎まれてしまう人生を歩むらしい。