第1章 12月7日
そんな わたしが通う美術専門の高校は、男子がまぁいない。どこにもいない。男女共学なのに、ほぼいない。いても、じゃが芋や薩摩芋みたいなパッとしない男ばっかり。
クラスもほぼ女子!そんな中での田中先生は、孤高の存在で、はっきり言えば神に近い。
この神のように尊い先生に嫌われることだけは、何としても避けてきた。そんな わたしが、最後の年、3年卒業まで、あと4カ月の所で、盛大にやらかした。田中先生の地雷を、完全に、完璧に踏んでしまった。
さぁぁっぱり、忘れてた課題の量は、少なくとも3日、いや、4日?いやいや、適当にやれば、もっと叱られるよ?……最低1週間は かかる。
そぅぅっと、おどおどしながら、腕組みして目の前に立つ、田中先生を見た。
「…………ごめんなさい、先生……完全に課題を忘れてました。だから、その1週間待ってくだーーー」
「ーーダメだ。市川、最近の授業も浮かれていると担任からも聞いてる」
ギラリと睨んで、言葉を遮る田中先生は、腕組みをやめて、愛用のパイプ椅子に座り、机から白い紙を取り出して、さらさらと何かを書き始めた。
黒地に白のストライプのカッターシャツを着た先生の腕が、踊るように動いてゆく。その姿をハラハラしながら眺めた。
え、え、何……何?
何書いてんの?何何何!?
こわいんだけど、ねえねえ、こわいんだけど⁈
「……あのクソ担任め……」
ぼそり田中先生に気づかれないように、毒を吐いた。
この先生は、美術のデザインの先生でもあるけれど、わたしのクラスの副担任も兼任する。
あーーー、あの堅物眼鏡担任、田中先生にチクるとか酷くない?ちょっと授業中、バイトのシフト表を記入してただけでしょ。ちょっと授業中ラインしてただけじゃん。
あれ、ダメ?
ざわざわ心を落ち着かなく立っていれば、田中先生が、さっきとは打って変わって、はーい、と笑顔で和かに紙を渡してきた。
何!?何て書いたの?!
意味が分からずに、苦笑いを浮かべて、その紙を受け取り、中身をすぐに確認した。