第1章 12月7日
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「市川、いつまでやるつもりだ? もう誰もいないぞ? まだやるのか?」
ガタンと、先ほどと同じ席に座った田中先生に言われて、ハッと我に返り、辺りを見渡した。
「あ、あれ……」
火が消えたように、デザイン教室は誰一人生徒は残っていなかった。窓の外は、いつの間にか、真っ暗になっている。
「もう6時をまわった。明日に回せ。土曜日だが、俺も学校に来て鍵を開けてやるから、続きは明日にしろ、わかったか?」
「……はい」
今週はお買い物行こうと思ってたのにーーー!! 何してたの、わたしーー!だからバイトーー!あー時を戻してーー。
はぁぁ……もう溜息出ちゃうよ。さっさと片付けて帰ろうかな、鉛筆や消しゴムを筆箱に入れていれば、田中先生が座っている椅子が、近くに寄る。
「靴屋のバイトに好きな奴でもいるのか? そんなに入れ込むほど好きな男でも出来たのか?」
え?好きな人?
「だから夢中になって、俺の課題を忘れたんじゃないのか?誰よりも真面目だったろ、お前は」
近いな、田中先生、さっきから。目が真剣だし、どうしたのかな……。
「ち、違います! あとは卒業するだけだし、バイトで稼ぎまくろうと思ってたんですよ! 田中先生みたいなイケメンいないし、ないない!あー、早く大学に行って、恋がしたいなぁ……」
「…………」
あれ、シーーーーンって何で?
そこは、そうだな、大学に行ってガンガン遊べよ、とか、大学は勉強するところだ、とか、じゃないの?
不思議に思って田中先生の方を、見ていると、黙って考え込んでいた先生が、こちらを見つめた。