第1章 12月7日
即刻、私から離れてもらおうと、
田中先生に、「あ、じゃあ1人で頑張ります」と言ってデッサンを再開したけど、まだ先生は戻らない。
帰ってぇぇ!!
逆に離れるどころか、近くの椅子を持ってきて、横に並んで座って、私の描く作品を眺め始める。
更に騒つく教室はもう、大注目の中、デッサンをしていた。頼むこの先生どっかにやって!
「市川、今日バイトは?ないのか?」
バイトまで知ってるとは、あの眼鏡担任、やっぱり全部田中先生にチクったんだ。次に会ったら容赦しないんだから。
「あ、はい。今週は休みなんで、大丈夫です。今日でまず1つ終わらせます」
''奴隷にも召使いにもなりません"からね。
目も合わせずに、言葉を発して鉛筆でビール瓶のラベルを描写しているけれど、なんだか、やり難い。田中先生がいるからってわけじゃない。視線が刃物のように猛烈に痛かった。
「バイトより、今は学生生活を充実させた方が良い。辞めろとは言わない。土日だけにしろ、分かったな」
田中先生がきっぱりと言う。
「……はい。来週月曜日にシフト出す予定だったので、そうします」
分かりましたよ。と言って小さく口を尖らせていれば、田中先生が近くに寄る雰囲気があったから、待っていれば、ふわりと耳打ちしてきた。
「奴隷は、平日だけで良いからな?これからお前に、何してもらおうか、考えておくよ。楽しみだよ、市川」
そう耳元で囁いた田中先生の声は低く、甘さが入ったボイスで、瞬時に赤らめ、バッと顔を見れば、三日月に口を歪ませていた。
今、何!?何!?楽しみって何!?
真っ赤になって田中先生を見ていれば、満足したのか、頭をまた、ポンポンと撫でて、自席に戻って行った。