第1章 12月7日
「…………市川、上手くなったな、やっぱり三年になると、迫力が違うな。うん、そのまま進めろ」
ぽんぽんと頭を優しく触れた先生の顔を思わず見てしまった。この先生は、絶対に褒めない。何かしら指摘して、より上を求める事しか言わないのが有名な先生だ。
その美術に関しては腐るほどに厳しい先生が、わたしを評価した。その途端、騒つくデザイン教室。そりゃそうだ。この言葉がほしくて連日通う後輩やら同級生、先輩を見てきたんだから。
「田中先生、ふふ、凄く嬉しいです、ありがとうございます。頑張ります」
と、にっこり笑顔で笑ったわたしは、明るい声で感謝を伝えた。先生に褒められちゃったぁぁぁ!!
有頂天な気分ー!しかも田中先生も同じように優しく笑ってくれてるよ。ああ、もう今日、地獄から天国だなぁ、なんて思った1秒後、後悔した。やっぱり地獄は地獄だった。
無数の突き刺さる視線が、背中や前や右、左、四方八方から飛んでいた。
……ヤバい!!
ゾォっと背筋が凍り付く。同級生も友達も、今の田中先生と私のやり取りはマズかったらしく、敵に回る。
明日の朝、自分の机の上に花瓶が乗っていないだろうか。はたまた上靴は隠されて、さらに、体操服はゴミ捨て場に捨てられ……なんか無いよね!?ね!わたし達友だちよね⁈
ちらりと周りを見れば、般若の女子が溢れていた。やっぱりこれはダメだ。これ以上田中先生がそばにいたら、先生がこの場に、いなくなった時のリンチが恐ろしい。