第8章 〜探偵達のそれぞれの思い〜
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警察庁の部署の一つに、警備局警備企画課───通称を公安ともゼロとも呼ばれる組織が秘密裏に存在している。そこに金髪で褐色肌の男───降谷零は所属していた
彼は、普段を安室透と名乗っては喫茶店のバイトと探偵を兼業し、謎に包まれた悪の組織ではバーボンと名乗って情報屋をしている。要するに、トリプルフェイスの人間なのだ
そして、この日は本来の職業である公安で仕事に従事していた。怪盗キッドの事件から既に数日経過している日だ。部下達の席より離れた場所で、デスクに座って書類を素早く裁く。そんな彼は、集中して作業する最中に現れた影で、俯けていた顔を上げた
「降谷さん、貴方が仰っていた榊麻衣と榊家に関する調査結果が出ました。これです」
「ああ。ご苦労だったな、風見」
台詞とともに差し出された書類を、降谷が早速手にとって黙読する。風見───警視庁公安部に所属する部下は、上司のその姿に遠慮がちながら如何してもと疑問を口をする
「……良かったのですか。彼女の仕事、公務員の部分が謎だらけです。深く追求するなとの指示は一体どんな理由が?」
「警視庁で榊麻衣が言っていたんだ。国家機密と国の保護が必要な存在なのだと。なら、不用意に深く詮索するのは得策ではない」
「そうでしたか…」
このやり取りの後、数十秒間の長い沈黙が訪れる。静かな室内には複数人の息遣いと、パソコンのキーボードを叩く音と紙をめくる音だけだった。風見はジッと上司の次の言葉を待機して待っている。やがて、資料に全て目を通した彼は、難しい顔をして資料を己のデスクの引き出しの奥にしまった
「これだけ分かれば十分だ。風見、もう仕事に戻ってくれて大丈夫だ」
「では、失礼します」
指示の通りに、敬礼してから降谷の元を立ち去る風見。部下の背中が他の部下に埋もれるのをしかと見届け、降谷は自分の背後にあるブラインドがかかった窓の向こうを見やった
「(……恐らく、コナンくんもFBIに頼んで調査している頃だろうな。彼女を深追いしてはならない。すぐに諦めてくれると良いが)」
FBIへの嫌悪を感じつつ、見た目以上に賢い幼子が暴走しないように降谷は祈った───