第7章 〜闇夜の邂逅に白き魔術師、驚き好きの鶴も添えて〜 後編
「そうなのか?」
意外だ、という驚いた顔でキッドを見返す鶴丸。彼は心踊る感覚こそすれ、腹立たしく思う気持ちが分からなかった
「ええ、私が毎度これを使って空から逃げていますからね。憎らしく思っても無理はない…」
「ふーん、そりゃまた」
「ですから、とても新鮮でしたよ───」
不意に、キッドが大きく動いた。人間にとって反応した途端の一瞬で、鶴丸の真横に駆け出して詰め寄った。それにピクリと手指を震わせる鶴丸だったが、反射的なそれ以上の反応はしない。キッドが勝ち誇った笑みを見せると、態とらしく紳士ぶった口調で言った
「───実に楽しい時間でした、ありがとうございます騎士(ナイト)殿。今回も私が無事に逃げ切ってみせましょう。神前の誓いは有言実行、破るのは禁忌ですからね」
「……ああ、是非ともそうしてもらいたいな」
キッドが自分の台詞の直後に駆け出した。彼は鶴丸の意味深な声を聞き逃し、元来た方向をまっすぐ走る。そして手に握り締めたスイッチのボタンを押すと、ハンググライダーに付属していたプロペラが回転を始めたのだ。すると、キッドの身体がみるみる上昇して、やがて鳥の様に夜空へ羽ばたいた
「おお!あれがあれば、俺ももっと鶴らしくなるかもしれん!!欲しい…!!」
キッドを態と見逃した鶴丸が、再びキッドの飛ぶ姿に目を輝かせる。恍惚とした様子で魅入り、白色が遠く離れていくのを見守った───
*
その後、キッドを追った鶴丸は後からやってきた、警察と探偵達と麻衣達と合流した。『キッドに逃げられてしまった』と報告すると、全員が「えええええっ?!」と落胆して肩を落とした
無論、麻衣と今剣だけは何とも、曖昧な表情で話しを聞いている。加えて安室も、疑わしげな視線で苦笑いする鶴丸を見つめていた
「(……あれだけの身体能力を持っていて、逃げられるなんてありえるのか?暗闇で視界が不便だとしても、それだけじゃない『何か』を隠してる!)」
根拠はないが、安室の勘が己の中で強く訴えていた。身体的な理由か、あるいは個人的な私情か、はたまた都合が悪い事情でもあるのか。正直、困っていた様子もなければ全く見当をつけようがない
謎が新たに増えた事実に、安室は表情を益々険しくさせたのだった───