第6章 〜闇夜の邂逅に白き魔術師、驚き好きの鶴も添えて〜 前編
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会議を経た翌日、いよいよキッドが指定した予告の当日になった。件の神社は都心部の外れで、『九十九神社』として存在する。
まず入り口は石段が十段程あり、朱色の鳥居が聳えていた。潜れば幅が鳥居ぐらいの短い並木道が続いており、奥には改めて巨大な神門と本殿の姿が確認できた。何とも荘厳で神々しい建物だった。境内も随分と広いものだし、敷地は塀が遊園地並みに囲っている。しかも、加えて本殿裏は一般客が侵入禁止になっており、奥には御所の様な砦の大門と麻衣達の本丸である屋敷があった。
もちろん神社と本丸を繋ぐ大門は、普段から厳重に閉じたままだ。古来より神社は神を祀る場所。神様が榊家を守っている構造だった。実に神秘的で不思議な場所である。
さて、閑話休題。責任者たる麻衣は、今日(こんにち)の護衛である二人の付喪神と神門の前に待機していた。出迎えの為と思われる面子だ。肝心の刃選(じんせん)は、右側に鶴丸国永、左側に今剣がいる。彼らは身軽な内番服を着ており、麻衣は正装の緋袴で出ていた
「───…あ!けいさつのひとがきましたよ!」
不意に、到着した車や鳥居を潜る刑事達を見て、今剣が声をあげる。先頭が中森警部と毛利らしく、部下の刑事達を引き連れ乍ら並木道の端を疎らに歩いて来た
「お待たせしてしまって申し訳ありませんな…」
「いえいえ、此方は気にしてませんよ。今日はよろしくお願いします」
中森の詫びにも微笑を浮かべ、ゆったりと頭を下げた麻衣。怪盗が入ってくる日だというのに、緊張どころか落ち着いた態度だ。三人の綺麗な容姿も相まって、その凛々しさには惹かれるものがある。だが、忘れてはいけない。九十九神社は政府が保護する大事な土地。場所が場所なだけに、気を緩めれない緊張ばかりが続いていた
「話を通して任せた以上は、安心しきって頼りにします。色々と窮屈な場所でしょうが、キッドの捕獲を祈願いたします」
そう言った声音、視線には言葉通りの、警察に対する信頼がある。
怪盗キッドの数多なファンが、何人いるか知れない時世で。一般市民もマスコミさえも、警察ではなく応援は彼方だ。【キッドキラー】の少年も然り。応援されたのは新鮮な気分で、益々闘志がみなぎらせた