第31章 〜死人に口なし、されど語らう〜
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そんな灰原哀が江戸川コナンを含めた探偵団と、大きな河川敷で遊んでいた時の事だった。やはりそこでいつもの如く事件は起こっていて、川辺で遺体を発見してしまったコナンはすぐに警察に通報を行った。幸い歩美と元太と光彦は目撃せずにすんで、五人は以前のよう貢献しようと躍起になる事はなく離れた場所で待機している
すると程なくパトカーが来て現場に捜査一課が着いた。彼らは到着し次第、現場の保存と鑑識係の作業、そして五人に対する事情聴取などを開始する
遺体は顔の損傷が激しく、服が女性用のもので頭髪が長くなければ男か女の区別さえもつかない程の酷さだった。顔を刃物でズタズタに切り刻まれて、上半身には胸を一突きにした刺し傷のみ。全身を夥しい血液で濡らし、服で隠しきれない腕には暴行を受けたと思える跡がある。さすがに事件に数多遭遇しているコナンや、ベテランの刑事達でさえも顔を顰めたり吐き気を覚えた
「(あんな惨殺死体は、工藤新一として推理してた頃にも見た事ねぇ……。目撃したのが俺だけだったのは良かったぜ、あんなのトラウマもんじゃねぇか……)」
こうして幼い友人達が見ずにすんだ事は喜ばしいが、猟奇殺人事件の当事者にまでなった己はあまりに不憫だと思った。きっと血も涙も無い男に暴行された挙句に殺され、川を流れていたら漂着したのだろう。遺体は濡れて凶器も犯人が所持していると見られる
ならば被害者の死亡推定時刻から逆算し、行動を追って本当の殺害現場を見つけ出す。目撃証言や防犯カメラの確認、怨恨がありそうな交友関係の特定、その人物のアリバイ確認など。遺体や発見現場を調査している鑑識からは、全身の傷の凶器が果物ナイフである事、致命傷が胸の刺し傷である事、死亡推定時刻が一晩前だと判明した
「………女性に対してここまで残忍な行動が取れるなら、犯人はきっと男だろうな」
「そうでしょうか……。同性の嫉妬や怨恨の可能性も捨てきれませんよ?」
「ですが無関係の人間が感情任せに被害者を襲い、殺害したという線もありますね……。ほら、そういう事件も何度か見かけますし」
「しかし高木君、無関係だった人物の犯行だったとしたらここまで酷いもんかね?」
目暮と佐藤と高木が容疑者について幾つも可能性を挙げていく。コナンは警察がそうやって話し合っている中、介入せずに捜査を見守るのだった