第29章 〜奇々怪々〜
おかげで安室とコナンはすっかり黙り込んで、普通にハムサンドを頬張る太鼓鐘や、コーヒーを飲んでる大倶利伽羅と光忠の平然とした態度を見ていた。すると咀嚼した分をすぐに飲み込んでしまった太鼓鐘がにかっと歯を見せながら笑った
「ま、俺ら以外に見えてねぇなら大丈夫だ!お前らにとっちゃ存在しねぇもんだって!」
「……だけど真実は一つしかない。僕も安室さんもさっき言ってた人は見てないよ。だからお兄さん達が見たって言うなら、はっきりさせないと気がすまない」
「んー、……悪いけど無理だろうね。君らの答え真面な人間の真実だし、僕らの霊感は証拠がない。議論にならないと思う。それと君が拘る一つの結論っていうのは、きっと『真実』じゃなくて『事実』じゃないかな?」
絶対誤魔化されないからな、そんな意思が見えるほど太鼓鐘を睨むコナンに光忠が苦笑いで告げる。真実と事実。コナンがどっちも一緒じゃないかと眉間を寄せていると、安室が続きの言葉を紡ぐ
「真実っていうのは、嘘偽りがないこと、本当のことを指す。事実は現実に起こって実在する事柄のことを言うんだ。二つは似ているようで違うよ。真実は当人にとっての主観的な話だから、人の数だけ凡ゆる視点の答えがある」
「一方、事実は客観的にその場の事象を捉える言葉なんだ。一度辞書で調べてみるといいよ」
安室に次いで光忠からもそう言われたコナンは、太鼓鐘達がうっかり零した見えない存在がいる事よりも、真実と事実の違いを聞いてとても戸惑った。経験則で麻衣や彼女の部下が、間違った知識を言わない事は信頼出来てしまうから。いっそ正論ばかりが故に苦手と感じそうなほどだ結局、これ以上の収穫はないまま、最後に大倶利伽羅が辛辣な言葉を残して三人はポアロを出て行った
「……あの男には憎悪がない。あるのは死んだ事への深い悲しみ、そして終わった命を利用し、愉悦と娯楽に興じる生者に対する絶望感だけだ。だから誰にも被害がないんだろうな、怒る事さえ馬鹿らしげな目だった。責任者には一度言っておけ、お前達が縛ってるんだとな」
安室は神妙な顔で頷き返していた。コナンも彼らに対して躍起になっていた感情が一気に冷め、家に帰った後はこっそり辞書を引いてみた
すると調べた辞書には確かに、言われた事がそのまま書かれていて、自分の中の固定概念を揺らがせた