第5章 〜怪盗キッド対策会議
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その後、詮索は無駄だと悟ったのか、渋々コナンは会議室を出て行く。麻衣が彼の背中を見届けており、傍にいた安室は彼女の着物の袖口辺りを凝視した
「(……ああ。やっぱり、コナンくんが仕掛けてるな。小型の盗聴器、気づいてるだろうか?)」
左側にいる安室に対し、盗聴器があるのは麻衣の右裾。丁度、袖の振り部分の内側に黒い小型の機械が張り付いている。仕掛けられた本人は知らなそうだ。でも、麻衣の右横に立つ護衛は、知ってか知らずか見えない筈の右袖を睨んでいる
「どうかしましたか?二人揃って私の右側を見てますけど…」
「あ、いえ…!大した意味はないんです」
「……別に。気にする程じゃない」
突如、麻衣から不審さを突かれて、即座に誤魔化した安室と広光。するとそのまま、慣れない動作で広光が麻衣の肩を不器用に抱き寄せた。その力加減や眼差しは優しいし、どさくさに一瞬で盗聴器を壊していた。安室も驚きの早業である。
そして、「早く行くぞ」という護衛の言葉で一同は解散して席に着いた。コナンの姿も会議室にはない。今頃、廊下で悔しがっているだろう。警察署内での犯罪を反省せずに。しかし、今の安室の心中は別の思考が独占していた
『ごめんなさいね?守秘義務は死んでも守る主義なの…。でないと君たち国民を危険に巻き込むし、大事な愛おしい御国を裏切ってしまうから』
麻衣がコナンに放った言葉だ。この時、彼女の真剣な瞳は力強い意思で輝いていた。とても未成年の言葉とは思えない。でも、麻衣の表情と覚悟には嘘が無かった
「(榊麻衣、か……。身分は確かだが謎の多い少女のようだ。だけど、きっと彼女も【俺】と同じでこの国の為に────)」
そこまで考えて、安室は人知れず穏やかな笑みを浮かべていた
それから数時間、会議はスムーズに滞りなく行われた。可笑しな点は特に見当たらず、【盗まれない家宝に警護は不要】として人員を犯人捕獲にやるようだ。警察側の妥協の結果である
とは言え、小五郎と安室はこの時に初めて、予告状がキッドのものだと知った。キッドキラーの渾名を持つコナンが、蚊帳の外なのは初めての事で……。
如何いうわけか、全員の士気が普段よりぐんと上がっていた