第29章 〜奇々怪々〜
その日、私立探偵を務める安室は依頼を受けていた。場所は安室自身が本職の潜入調査の都合でバイトに入っている喫茶ポアロを使い、客足があまり増えない午前中に相談の予約を受けていた。なのでバイトの時間は依頼人の予定に合わせ、探偵の仕事を除いて一日出勤のシフトを組んでいた
しかしこの日は好奇心旺盛な小さいお客さんが多く、灰原哀を除いた少年探偵団の四人がケーキと飲み物を目当てに来店している。安室は子供達の相手をしつつ何度か店内の時計を見上げており、端に座って目敏く気づいたコナンが安室に声をかけた
「安室の兄ちゃん、さっきから時計気にしてるけど何かあるの?」
「ああ、後数分でバイトが上がりになってるんだ。探偵の仕事で依頼人がここに来るんだよ」
「へぇ〜」
探偵の仕事、そう聞いたコナンは何気なく相槌を打ちながらも、内心はどういう依頼なのかと思案していた。すると少年探偵団の子供達も、安室とコナンの声が聞こえたらしく会話に参加し始めた
「えっ!お兄さんこれから探偵の仕事なの?」
「兼業するって大変なんですね……」
「兄ちゃん、なんか事件の依頼なのか?『けんぎょー』って金魚の仲間みたいだな!」
忙しそうな安室の仕事ぶりに驚く歩美や光彦。元太は兼業の意味が分からないらしく、的外れな解釈をしてしまっていた。これが数ヶ月の彼らであれば、恐らく依頼と聞くたび瞳を輝かせていた事だろう。良くも悪くも純粋に探偵に憧れていたのだ、彼らは好奇心も旺盛で自分達が事件を解決するんだと必死になっていた
しかし麻衣の社会的な常識や、向上心と良心を刺激する話を聞いてからは行動を改めたらしい。おかげで自分達から事件に首を突っ込まなくなり、現場に入る事なく周囲の大人や警察を頼るようになったそうだ
これを聞いた安室は心底安心していた。こうして今も探偵を目指す身として、依頼を深く詮索しないでいる。安室は内心その喜びを噛みしめながら、間違って認識している元太に正解を教えてあげた
「残念ながら違うよ。兼業や副業っていうのは、仕事を二つ以上掛け持ちする事なんだ。これら二つは細かく説明すると違うんだけどね、警察や学校の先生なんかの公務員は禁止されているんだよ」
「じゃあその仕事頑張ってる人は大変なんだなぁ。教えてくれてありがとう、安室の兄ちゃん!」
「どういたしまして」