第26章 〜ホラースポット・ポアロ1〜
とは言え、一般人や子供が事件に慣れて平然と現場を歩き回り、刑事と探偵の手伝いなどと言って捜査に加わる姿は異様でしかない。コナンも自分がそんな誰かを目撃すれば絶対に怪しんでいくし、自分があまりに未熟で軽率な振る舞いをして矛盾や危険を犯しているのは自覚している。周囲が不自然なコナンを何度も注意し、遠ざけようとするのは至って当然の話だった。そして新一がコナンを通して事件の情報を受けていたり、小五郎の手伝いだという名目で密かに捜査するのも本来はあり得ないのだ
探偵は守秘義務以外にも大事な規則や仕事の一線があり、それをきちんと弁えるからこそ信頼と安全を築ける。コナンはその事をきちんと理解している反面、煩わしいとも感じていた。ズバリと注意されて以降、警察からは新一として舞台裏に重宝され、コナンは現場に入らないが証言を邪険にされなくなった。蘭や刑事達が己の機微に敏感になり、コナンとしての考えを耳に入れてくれるのだ。かくしてこの一連の変化は、コナンと新一にとって最低限の動きやすい環境を作っている。ところが現場を自由に歩けないその状態は、少しばかり窮屈に思うのだった
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その時間の喫茶ポアロの客足は少なく、昼で満員だった店内は女子高生と子供の組を残して一気に空いた状態となった。今も残って喋っている四人組のメンバーは常連の集まりで、ポアロの上の階で事務所と家を借りている蘭とコナン、世良と園子がそれぞれニ対二で座っていた。彼女達はプライベートで買い物の後に恒例のポアロを訪れており、世良とコナンがショルダーバックで蘭と園子が愛らしいポシェットを持っている
しかし唯一園子だけが余分に風呂敷で包んだ縦長の四角い荷物を抱えていて、買った商品ではなく家から持ってきたそれを自分の横に置いていた。果たしてそれは一体何なのか。コナンと世良が気になって仕方がないので問うてみれば、園子が困った様子で眉を八の字にして事情を打ち明けていく
「「ーーー絶対壊れないオークションの壺?」」
「そうなの、ノコギリやチェーンソーでも傷一つつかない不気味な木箱に入っててね。元は骨董品のオークションで次郎吉おじ様が購入した物だったの。なんでも億単位の値段で競り落としたらしくて、昔の人が『おまじない』で使っていた高級な壺ですって」