第24章 〜疑わしきは、誰なりや〜
やはり巫山戯た話だと沖矢は思った。諸悪が米花町という地域そのものにあり、人智を超えた薄気味悪さを孕んでいながら無視をしても安全だという。麻衣はそれを軽率な判断で言った様子はなく、むしろ確信を持って断定していた。そこで麻衣がどうしてそれほど詳しいのか、実は彼女達も関与しているのではと疑念を持った沖矢が、僅かに開いた糸目で睨みをきかせながら棘を含んだ物言いで問い詰める。すると次に口を開いたのは、机に片肘をついて時々紅茶を啜っていた明石だ
「どうもこうもありまへんよ。アレは間違いなくあんさんらの願望を再現しとるわ」
「そ、そんなわけあるか!あんな気持ち悪いものが『いればいい』って思うわけないだろ!」
「うん。実際思ってないだろうね。そんなの願った人間がいたら尚更まずい事になってるし。みんなが抽象的なイメージでいれたおかげかな、チグハグなのは綺麗な上辺だけを象った(かたどった)結果だろうけど……」
「だな。何年も前からいるから何度か見聞きしたけど、アレで本質そのまま形になってたらヤバいものに成ってたぜ?」
間違いないとこれまた言い切る明石に、血相を変えるコナンが乱暴な口調で必死に否定した。黒い影は悍ましい気配を漂わせていたのだ。自分達を含めて町民誰もが、それこそ黒の組織のメンバーでさえ誕生を拒むだろう。沖矢も灰原も言葉にしてはいないが同じ思いだった。望んで危険なものを生み出す愚者いないのだと。すると訴えを聞いた蛍丸からその言い分を肯定されて、尚且つそれ故の歪んだ存在なのだと語られれば謎が深まって頭がいっぱいだった。そして最後に愛染が言った本質を形に、という言葉でその影があくまで良い者であると知る
沖矢達はもっと情報を欲していたが、明石達の喋り方では語るべきものを既に掲示しきった口ぶりである。コナンと沖矢は互いに目配せし合い、どうしたものかと逡巡していると何気なく腕時計を見ていた明石が「あれま」と声を上げた
その呟きは、コナン達が麻衣に相談のために貰えた一時間のタイムリミットを告げるものだったーーー
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麻衣と明石達がポアロを出て行って暫くが経った。灰原は麻衣達が店を去って行った時点で長居する気はなかったらしく、「捜査は禁止のようね」と無情に告げて早々に一人で帰ってしまった