第24章 〜疑わしきは、誰なりや〜
麻衣に促された明石達がコナン達に名前を名乗っていく。順に気怠げな大人が明石国行、絆創膏を貼った子供が愛染国俊、最後に癖っ毛の子供が阿蘇蛍という名らしい。その後、テーブルにやってきた榎本梓にドリンクを注文し、彼らに続いてコナン達も名乗るとタイミング良く梓がドリンクが届けに来た。梓はすぐに「ごゆっくり」と声をかけてカウンターの方に戻って行き、その背を見送った麻衣がいよいよ本題を切り出していく
「それで、貴方方の相談というのは?」
「前に僕らが揃って事件に巻き込まれた、あの米花町の二丁目の公園であった話なんだ。あそこで先週、僕らと少年探偵団が真っ黒い影みたいな不気味な奴を見たんだ。それについて麻衣さんも調べてほしくって」
「真っ黒い影のような……。黒人の方ではなく?」
「違う。アレは絶対違うよ。身長、性別、人相、髪型が分からないなんて普通じゃないでしょ?黒い影は僕ら以外の目撃者もいる。二丁目に不定期で出てきて、同じ特徴の奴から一方的に話しかけられ、その声も内容も一切覚えていないんだ」
遭遇した当時を思い出したのだろう。沖矢と灰原はアレが発していた底知れない気配と恐怖、理解を超えた存在感にゾワゾワとした不快さで気持ち悪くなった。そして代表で説明しているコナンもありのままを語っているが、文字通り正体を見抜ける要素がない事を言葉にするのは探偵として恥を忍んだ行為だった
「……あの時、公園の外で立ってた僕らと中にいたアレの距離は三メートル以上あったんだ。なのに、アレは一瞬で僕の目の前に移動した。黒で塗りつぶされた奴が、『オレ』の顔をジッと覗き込んできたりして。だけど喋ってないから同じなのか、別ものなのか分かんねぇし。一体何が目的で正体が何なのか知りたい、麻衣さんは調査を手伝ってくれる?」
そう言って訴えかけるコナンは一人称が僅かに素に戻っていた。冷静な口調で平常そうに見えても、その実かなり動揺していて参っている様子だった。そんな少年が言った黒に塗りつぶされたモノ。物理的な常識を無視し、五感から何も得られぬ純黒そのものな相手に得心のいく表現だなと沖矢は思った。そして、麻衣はその謎を解明できる知識を有している。男二人は麻衣が誰かを無碍に扱えない恐ろしいほど優しい性格なのだと身をもって理解していた