第19章 〜大阪心霊現象ミステリー 初日編〜
「お待ちしていました!遠路遥々来て頂いてありがとうごいます…!」
「いえいえ、依頼の期間中は四人でお世話になります。よろしゅうお願いします」
すっかり恐縮しきった様子の依頼人は、どうやらよほど麻衣達を迎え入れる今日(こんにち)を待ち望んでいたらしい。仮にも二十歳を超えない娘が大人の依頼人に対し堂々と振る舞い、彼方が大人に対する愛想の良さで家の敷地に歓迎してくれる。塀に寄せた安室の車はそのまま停めても良いそうで、四人は一緒に依頼人の案内のもと外との境界である敷地に一歩足を踏み込んだ
依頼人の名前は三船典子。齢は四十を目前とした婦人であるが、目の下の小さなクマや疲れを隠せない表情によって、今は少し実年齢より老けて見える印象だった。そんな彼女は子宝に恵まれず、旦那の三船宗二と二人仲良く暮らして来たらしい。滅多に喧嘩が起きる事もないらしく、正に平和で暖かな家庭のようだ。ところが、そんな平穏な生活の中、不意にある日を境に当たり前の暮らしが脅かされたという……
それが怪奇現象だ。手紙に書かれていたのはそこまでで、詳しい話は案内された部屋で行われる。しかし玄関に入って廊下を進んでいく中、申し訳なさげな三船典子が予想だにしない話を謝罪とともに告げた
「実は、皆はんに申し訳ない事になってな……。私が貴女方に依頼しとったのとは別で、夫が秘密裏に大阪と東都にいる探偵方へこの日に依頼を出したらしいんです」
「と、東都と大阪、大丈夫なのですか?一社でも依頼金は相当な額ですよ?切羽詰まっている気持ちはお察ししますが……」
「ええ、ええ、あまりに無謀でした。それで今は主人と喧嘩中なんです。お互い依頼を取り消すつもりがないんで、客人の皆はんは居心地悪う感じてまうんやろうけど……。それだけ深刻な話やって思って貰えれば幸いです。ほんま申し訳ない。既に探偵方も揃っとるし、我が家なのに気まずいったらないわ!」
心底参った様子で莫大な費用をかけた危うい話を嘆く彼女に対し、四人が揃って驚きつつも僅かに戸惑う事となった。これには思わず安室が心配のあまり声をかけてしまい、彼女は仮にも客人の前だからか怒りを抑えた声で不満を溢す。しかし彼らは互いに依頼をそのまま進めるつもりのようで、話の間に客室らしき部屋の前まで来ると三船典子が先にドアを開けて足を踏み入れた
