第13章 〜持てるものこそ与えなくては 後編〜
コナンの優秀すぎた頭脳は、既に現実を受け入れ理解していた。それは自分が江戸川コナンで幼い子供である事、そして本来の姿・工藤新一としても未だに未熟者であるという事実だ。あの時、幼い友人達を優しく諭した麻衣の警告は、全てコナンもとい新一にとっても厳しい指摘だった
『あの作品はあくまでフィクション…。時代も、国も、法律も、文化も、全てが現在の日本と違う世界の物語です』
そんな事は漠然としている話で、理解こそあってもコナンは実感できなかった。しかし歩美達とともに麻衣の言葉を聞いてみると、その警告が彼らだけじゃなくて自分にも当て嵌まる事を自覚してしまう。仮にも工藤新一は優秀な高校生だが、圧倒的な頭脳はあっても社会的責任を負えず自衛の術が乏しい。……だからこそ、悪の組織によって始末されかけた彼は幼児化、江戸川コナンは世間から見るとただの小学生でしかない
しかし普段なら右から左へ聞き流していた説教を、自分を過信するあまり無視していた欠点を、如何にか出来ないかと歯痒く思う反面仕方ない現実だと受け入れていた。それはきっと、彼女が今まで頭ごなしに怒鳴ってきた大人達とは違うからだろう。麻衣は子供達に悪い部分を厳しく注意したが、夢を叶えようとするのは悪くないと激励もしたのだ。とことん人好きのする人柄だと思う
そしてオカルトじみた発言を聞いた時も、胡散臭くない話し方が妙に現実的で。寧ろ彼女の瞳に巫山戯た様子が一切なく、コナンも気づけなかった『何か』が犯人を確信させたのだと思い至った。コナンが心霊的な話を信じないが故に、そう考えて一先ず納得できたのだ
「(……だけど、あの人は一体何を見たんだ?形を失くして彷徨うなんて言葉の意味が分からないし…。そもそも何故、麻衣さんに見えて俺には見えなかった?それに───)」
知らないままでいいと言われたものの、その正体が気になって仕方がなかったコナン。彼はあれこれと疑問を抱える中で、ふと帰り際の出来事を思い出す。実は警察も含めた全員、長義から飴をもらったのだ。瓶詰めにされた普通の塩飴なのだが、何故か無性に舐めたい衝動に駆られ、舐めるとそれが非常に美味しかった。まるで鉛が乗った様に重い体が突然軽くなって、それを察した様に微笑んだ長義の言葉が耳に残っている
───「持てるものこそ、与えなくてはね」