第12章 〜持てるものこそ与えなくては 前編〜
その時『志保』に似た少女までも、私を見ては相当驚いた表情をしていた。本人が人違いだと言うのであっさり引き下がったが、それでは麻衣に対する反応の説明がつかない。そして長義の言葉もあるため、同一人物の疑いも出てきたのだ
とは言え、それで彼女に探究心が湧くかと言うと答えは『沸かない』。本音は気にならないわけないが、麻衣も御家や仲間とともに多くの秘密を抱える身である。だから守秘義務を行使する立場としては、自分を棚に上げてまでも安易に他者の領域へ踏み込む主義ではない。そして年相応に無邪気な付き合いをするには、彼女の感性はあまりに大人で凡ゆる事に聡明すぎた
「まぁ、何であれですよ…。興味を持つのは構いませんが、度が過ぎないように。彼方は私達に身バレするのを恐れています」
「ハハハ、分かっているよ」
仕方がないとばかりに、きちんと深入りは厳禁であると言い含めた麻衣。それに笑い混じりで頷いたのは南海だ。彼は自らを『刀剣博士』と称しており、刀剣に関する分野以外でも研究意欲は折り紙付きである。昔からの縁があった刀剣・肥前は呆れたようにジト目を送っていた。長義でさえも半分信じてなさげに肩を竦めていた。するとその時、
「うわぁああっ!!」
「「っ?!!」」
公園の公衆トイレの中から、男性の大きな悲鳴が聞こえた。突然の事に驚いて肩を震わせる子供達と阿笠と麻衣であったが、何故かコナンと沖矢はすぐさま声の場所へと駆け出していく。しかし既に動いていた長義に抜かれ、人並外れた素早い動きに思わずその目を剥いた。肥前と南海の二振りは麻衣を傍で護り続けている
そして、十数分後に警察が現れると公園の出入り口には規制線が張られた。麻衣はまたしても事件に遭遇したのである───