第2章 旅医者の女
シャボンディー諸島近海の大海原に一隻の商船が進む。
船首に仁王立ちし、向かい風に揺れる白衣に背中まである漆黒の髪。
漆黒の大きな瞳は船の進む方向を見据えていた。
戦いで鍛えたしなやかな体は海にいる方が長いにも拘らず真っ白な肌をしており、漆黒の髪と目と合わせて美しく際立たせている真っ赤な紅をさした唇。
彼女こそ18歳になったユリである。
医療技術の研修の終え、適当にシャボンディー諸島行きの商船を見つけ、護衛とお金あげるから乗せてとお願いして乗せて貰ってこの船にいる。
だいたい医者になるにはどんなに早くても22歳くらいまでは研修が必要なのだが、生まれ持った知識と頭の良さ、のみ込みの早さで、異例の早さでの終了だった。
そう。彼女はもう一人前の医者である。
そして、愛想も器量もよく、人を魅了してしまう彼女は帰ってくる船にも困らず、こうして、商船にお邪魔しているわけである。
「嬢ちゃん!もうすぐシャボンディー諸島だよ!」
「あら、ボルさん有り難う!」
今回お世話になっている、商船ディルバリー号の船長兼社長のボルさん。
50代後半くらいの白髪混じりでガタイといい、何かと豪快で気前がいいおじさん。
私が娘さんと同じくらいの年頃らしく乗船中はいろいろと気遣ってくれた。
「あんたのお陰で安心して航海できたよ。護衛の手間賃だと思って持ってってくれ!」
そう言って、手間賃というには多い額の札束をポンと渡された。
「いやいや、そんな!大して海賊船もそんなに出くわさなかったのに、その額はいくらなんでも多すぎます!!」
「勿論それだけじゃないさ。俺の持病も診てもらって、食事のアドバイスといい薬教えて貰ったんだ。
長年悩んでたことだったから嬉しいのさ!
それに、こんなに平和で楽しい航海は初めてだったよ!
その分の礼と思って受け取ってはもらえんかな?」
診たと言っても、顔色、体つきでそう思って、気になったことをちょっと聞いただけ。
あまりに引かないので、渋々受け取り、申し訳ないからと昼食を担当して乗組員に食べてもらった。
それも、大袈裟じゃないかと思うくらいに喜んでもらって、それはそれは楽しい時間を過ごした。