第5章 赤い腕章
「それともう一つ。社長から新しい任務が言い渡されている。
近年の海賊被害に伴って、孤児院をうちでやることになった。
慈善事業の一貫で支部がある全ての島に開設するらしい。
初期の立ち上げから軌道に乗るまでの期間、ユリと私で副社長が集めた者をサポートする事になった。
その件はまた、イーストブルーから帰ってきたころには詳細が伝えられるはずだ。」
「了解。また一緒に回るのかしら?」
「そういうことだ。」
「いい旅になるわ。」
不敵に笑って見せるユリの笑顔に不覚にも頬を染めてしまう。
エデルは、それを隠すようにして「無事に帰ってこい」と少しぶっきらぼうに答えたのだった。
夕食は、アンナに引きずられるように食堂へと向かう。
今日、帰還したときに仄めかしていたことを問いただす気だろう。
コックに注文を告げてテーブルに向かい合わせに座る。ワクワクしているアンナが連れてきたところは食堂の最奥の端っこ。
彼女の様子に苦笑しながらも、可愛らしいと思っているユリは、最初に持ってこられた食前酒に口をつけては外の夜の海を見つめた。
「随分、女性らしさが出てきたじゃないですか!凄く魅力的になられて。
さては、隊長、”恋”しちゃいましたか?」
勘の鋭いアンナは、恋の話が大好きな年頃の乙女だ。そんな様子に眉尻を下げて笑みを返すユリは、うっすらと頬を染めて、「そうね。」と静かに返した。正直に返ってきた返事に目を丸くして驚いていると、
「隠したって、アンナは気づいてしまうでしょう?」
大きな瞳が上目遣いでアンナに向けられて、その色香にほわりと頬を赤らめた。自分の上司がそのような表情をするのかという驚きと、年齢に似合わぬ仕草に自分の幼さと比較してしまった。
「そ、そうですけど。」
フフっと息を漏らすように笑うと、その眼は切なく影を落として、思いに更けているように映った。
「でも、もう、会うことないから、終わらせてきたの。」
「......隊長........。」
心配をかけまいと笑って見せるユリの笑みは切なさを帯びていて、でも、どうにもならないものなのだと悟れるものだった。
ちょうどその時に前菜とスープが運ばれてきたことにより、空気が途切れ、その話は静かに終わりを告げたのだった。